The site of this work, Nanakura Dam, an example of land reclamation, is a rock-fill dam with a height of 125 meters and a 340-meter crest, which produces 1,280,000kW of electricity.
Yukihisa Isobe, an ecological planner, and an alumnus of The University of Pennsylvania Graduate School has focused on its influence on the distinctive environmental resources of the area, such as wind, rain, underground water, and rivers, as well as on environmental changes in the Takase Valley ‒ including the construction of the dam itself. Concerning data ondata of wind power(the direction, maximum wind speed, and instantaneous wind speed over the past three years)he presents the direction of the wind in the field downriver from the dam. The lines created there are accumulations of rocks on the surface, revealed by digging. The streamer placed on the dam visualizes the current wind.
不確かな風向
七倉ダム
北アルプスを源とする豊富な流水と急峻な地形をもつ高瀬渓谷は、水力発電の適地である。明治から大正期にかけて、国産アルミニウム精錬のための電力を求めて大規模な電源開発が行われ、渓谷に5 つの発電所が建設された。現在は高瀬ダム、七倉ダム、大町ダムの3 つのダムがあり、高瀬ダムと七倉ダムの間には日本一の規模を誇る揚水式発電所、新高瀬川発電所がある。会場となった七倉ダムは巨大なロックフィルダムで、岩石や土砂を積み上げ建設された光景は圧巻である。
この地域特有の環境資源である土地資源の大規模改変(land reclamation)の結果として生じた風、降水、地下水、また河川への影響に着目し、ダム建設を含めた高瀬渓谷周辺の環境変化をテーマに、実際の観測や過去の委託研究環境資源調査等で収集したデータから風の流れを視覚化した。エコロジカルプランニングの手法にもとづき、長い時間をかけて水や風、総合的な自然の流れが変わっていく現象を、150m× 300m の原寸大で体感できる作品である。
エコロジカルプランニングとは、特定の地域における人と環境の関わりを多元的に読み解き、地域を分析する手法である。具体的には地学、気候、人為、生物、社会文化史など異なる視点から地域を分析し、それぞれの視点から相互の関連や周辺との地理的・歴史的な関係性を複合的に評価することで、より総合的に地域の特性(資源)の把握や環境(資源)利用に対する地域の適性(適合性と制約)の分析を行う。
磯辺行久はこの手法の日本における第一人者であり、その多元的な視点による分析は、日本における地域芸術祭の魅力にも繋がっている。本作の舞台となった七倉ダムはロックフィルダムという名前の通り、周辺の岩を集積し、積み重ねることで建設されている。作家は七倉ダムの3 年分に及ぶ風力、風向、最大風速、瞬間風速のデータを参考に、ダム下流の広場にその挙動(behavior)を示した。ダムの各所に設置された吹き流しが地上やダム斜面、ダム堤頂の現在の風の挙動を可視化している。広場の大地に描かれている線は、他流域から持ち込まないことを原則として、ダム下端の地面を掘り返して出てきた岩石や砂利をフルイにかけ、表面の土砂と入れ替えることによって示されている。
芸術祭会期中、多くの観客が七倉ダムの最上部まで階段で登り作品を俯瞰する体験を通して、河川水量、標高や季節的な時間、日照による風向や風速の変化を直に体感する機会となった。
『北アルプス国際芸術祭2020-2021』作品集より