局地風
規模が小さく、局地的な地形効果、地域的な気圧や気温など地区特有な条件によって特徴づけられた風を局地風という。天気が悪くなる時の状況として、渓谷地形による局地風が考えられる。この場合、熱的な要因として加熱/冷却が入れ替わるため日変化することが多くなる。つまり地形的な特質に起因する局地風は気象条件によって影響を受け、日中と夜間で異なる方向に吹くことが多い。斜面の山と谷間の温度差に伴う局地風には山谷風があり、これは秋山郷でも見られる。山を越えて吹き降ろす「おろし風」「だし風」など、その土地固有の名で呼ばれる。斜面降下風として吹き下ろす降下風が秋山郷でみられるが、これは主にフェーン風の特性を持つ。熱的な原因で生じる局地風には、陸と海の温度差が影響している海陸風も含まれる。
地形性降水
秋山郷は外洋(日本海)にも近いため、山地と海の間の気温差による海陸風が著しい。こうした地形性降水の特質は湿った気流が山地、特に渓谷の斜面に沿って急上昇する際に断熱膨張した結果、大気が冷却されて生じる降雨・降雪である。この場合、大気の流れが渓谷などの微地形の影響を受け、局地的に生じる上昇・下降気流に伴った降水量は斜面の向きと風向に密接に関わっており、特に渓谷地では地区的な差異を生じる。驟雨とは、このような急な強い雨のことである。
『秋山紀行』『北越雪譜』には霰、雹、霙、雪しぐれ、シガ(霞の一種)の記載があり、特にこの時代には極めて珍しい「雪花図」の引用、「顕微鏡(むしめがね)を以て雪状を審(つまびら)かに視たる図」などを含む降水(降雪)現象についての観察が各所に見られる。
一方、牧之が観察・記述している霰(あられ)は、直径5mm以下の氷の粒または塊である。これらは主に冬季に外洋からの強い寒気が渓谷地形を通じて流入する際に、積乱雲から降るものである。霰は通常、雷を伴う積乱雲から発生し、雪や雲粒が対流性の雲の中で結合して結氷する現象である。これが農作物に被害を与えることもある。また、「雪しぐれ」は、この地域特有の日本海側の雪雲が季節風に流されてちぎれ、内陸や山地に雪を降らせる現象である。「お天気雪」とも称され、「降っては止み、止んでは降る」を繰り返す特有の特徴がある。
『秋山紀行』『北越雪譜』には霰、雹、霙、雪しぐれ、シガ(霞の一種)の記載があり、特にこの時代には極めて珍しい「雪花図」の引用、「顕微鏡(むしめがね)を以て雪状を審(つまびら)かに視たる図」などを含む降水(降雪)現象についての観察が各所に見られる。
牧之は『北越雪譜』初編の中で雨とともに霰、霙、雹とともに地気雪について「凡(およそ)天より形を為(な)して下(くだ)す物○雨○雪○霰(あられ)○霙(みぞれ)○雹(ひよう)なり。露は地気の粒珠(りふしゆ)する所、霜は地気の凝結する所、冷気(れいき)の強弱(つよきよわき)によりてその形を異(こと)にするのみ。」と記述している。
また、「天に九ツの段あり、これを九天(きうてん)といふ。九段(くだん)の内最(もつとも)地に近き所を太陰天(たいいんてん)といふ。地を去る事高さ四十八万二千五百里といふ 太陰天と地との間に三ツの際(へだて)あり、天に近(ちかき)を熱際(ねつさい)といひ、中を冷際(れいさい)といひ、地に近(ちかき)を温際(をんさい)といふ。地気は冷際(れいさい)を限りとして熱際(ねつさい)に至らず、冷温(れいをん)の二段は地を去る事甚だ遠からず。富士山は温際を越(こえ)て冷際にちかきゆゑ、絶頂(ぜつてう)は温気(あたたかなる気)通ぜざるゆゑ草木(くさき)を生ぜず。夏も寒く雷鳴(かみなり)暴雨(ゆふだち)を温際(をんさい)の下に見る。雷と夕立はをんさいのからくり也 雲は地中の温気(をんき)より生ずる物ゆゑにその起(おこ)る形は湯気(ゆげ)のごとし、水を沸(わかし)て湯気の起(たつ)と同じ事也。雲温(あたたか)なる気を以て天に昇(のぼ)り、かの冷際(れいさい)にいたれば温(あたたか)なる気消(きえ)て雨となる、湯気の冷(ひえ)て露となるが如し。冷際にいたらざれば雲散じて雨をなさず さて雨露(あめつゆ)の粒珠(つぶだつ)は天地の気中に在(あ)るを以て也。」と観察と分析を詳細に記している2)。